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東京地方裁判所 平成2年(ワ)2566号 判決 1992年11月27日

主文

一  被告鎌形隆及び被告甲野太郎は、原告に対し、各自金五〇〇〇万円及びこれに対する被告鎌形隆については平成二年三月一三日から、被告甲野太郎については同月一一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告甲野花子に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の三分の二と被告鎌形隆及び被告甲野太郎に生じた費用を右被告両名の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告甲野花子に生じた費用を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

理由

第一  原告の請求

被告らは、原告に対し、各自金五〇〇〇万円及びこれに対する被告鎌形隆については平成二年三月一三日から、被告甲野太郎及び被告甲野花子については同月一一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  事案の要旨

原告は、「株式会社アイアンドケイエンジニアリング(請負人)と建築請負契約を締結したが、同会社は倒産し、原告は支払済みの請負代金五〇〇〇万円相当の損害を被つた。そこで、商法二六六条ノ三、二八〇条に基づき、右会社の代表取締役である被告鎌形隆、監査役である被告甲野太郎(弁護士)、取締役である被告甲野花子に対し、右同額の損害賠償責任がある。」旨主張し、争われた事件である(付帯請求起算日は本訴状送達日の翌日である。)。

二  当事者、建築請負契約締結の経緯等

以下、〔 〕内はその事実の認定に供した証拠であり、特に証拠を摘示していない事実は当事者間に争いのない事実である。

1  株式会社アイアンドケイエンジニアリング(以下「訴外会社」という)について

訴外会社は、昭和五九年八月、資本金五〇〇万円で設立されたが、昭和六一年四月、増資されて資本金二〇〇〇万円となつた土木、建築の企画、設計、施工及び管理並びに宅地建物取引業等を目的とする会社である。

2(訴外会社と被告らの関係)

被告鎌形隆(以下「被告鎌形」という)は、訴外会社の代表取締役であり、被告甲野太郎(以下「被告甲野」という)は同会社の監査役、被告甲野花子(以下「被告花子」という)は同会社の取締役である。

なお、被告甲野は、弁護士業務を営む者であり、被告花子はその妻である。

3(本件契約の締結)

原告は、昭和六二年一一月ころから、神奈川県川崎市中原区新丸子にマンション建築の計画を立て、昭和六三年一〇月ころまでに同所に土地を購入し、昭和六三年一二月二六日、訴外会社と以下の内容の請負契約を締結した(この契約を以下「本件契約」という)。すなわち、

工事名(仮称)シティーコーポ新丸子新築工事(以下「本件工事」という)

発注者 原告

請負人 訴外会社

工事場所 神奈川県川崎市《番地略》

工期 着手 昭和六四年一月二〇日 契約の日から二七八日以内 完成 昭和六四年九月三〇日 着手の日から二五一日以内

請負代金の額 一億九〇〇〇万円

請負代金の支払 部分払

第一回 工事着工時 五〇〇〇万円

第二回 基礎工事完了時 一五〇〇万円

第三回 上棟時 四〇〇〇万円

第四回 土木完了時 二五〇〇万円

完成時に 六〇〇〇万円

〔被告甲野及び被告花子の関係で、《証拠略》〕

4(原告の支払)

原告は、平成元年一月二〇日ころ、訴外会社に対し、本件契約に基づく請負代金の一部五〇〇〇万円を支払つた(この金員を以下「本件金員」という)。

〔被告甲野及び被告花子の関係で、《証拠略》〕

5(訴外会社の倒産、本件工事放棄)

訴外会社は、平成元年一月二〇日ころ、本件工事に着工して一部の杭打ち作業をしたが、同年三月末ころ、負債総額約二〇億円で倒産し、そのころ本件工事を放棄するに至つた。

〔《証拠略》〕

6(原告の損害)

訴外会社の倒産、本件工事放棄によつて、原告は、別の請負業者に本件工事の続行を依頼せざるを得なくなり、建物完成が大幅に遅延したばかりでなく、右杭打ち工事をした訴外会社の下請会社に対して直接工事代金一〇〇〇万円を支払う等工事費用も大幅に上回る結果となり、また、本件金員の回収も不能となつた。したがつて、原告は少なくとも本件金員と同額の五〇〇〇万円の損害を被つた。

〔《証拠略》〕

三  争点

被告らに、商法二六六条ノ三、二八〇条に基づく損害賠償責任があるか否か。

〔原告の主張〕

1 訴外会社の実質は被告鎌形及び被告甲野経営の個人企業であり、設立後毎期五〇〇〇万円以上の損失を出している赤字会社であつたが、不動産売上で辛うじて経営を維持してきた。しかし、被告鎌形及び被告甲野は、不動産取引業の無責任な実体を覆い隠すために、建築業、電子機器製造販売業などの企業の外形を利用し、「弁護士の頭文字(アイは被告甲野のこと、ケイは被告鎌形の頭文字)」を用いるなどして取引相手に信頼感を与える悪質な商法をとつた。これを信用し、また、訴外会社の粉飾決算の経理内容を誤信した原告は、訴外会社と本件契約を締結し、訴外会社に本件金員を支払つた。

そして、訴外会社は、平成元年一月の本件工事着工時点で既に下請業者に注文できないほど資金に窮し、工事遂行ができない状態であるのにもかかわらず敢えて工事代金名目で原告から五〇〇〇万円を受領したのは詐欺的行為であるともいうべきである。

2(被告鎌形の責任)

被告鎌形は、訴外会社には二〇億円を超える負債があるのにもかかわらず、貸借対照表に虚偽の記載をし、利益があるように粉飾決算をおこない、訴外会社の信用状態を良好であるかのように装つた。

したがつて、被告鎌形には、代表取締役としての任務懈怠があり、任務懈怠につき悪意または重過失がある。

3(被告花子の責任)

被告花子は、訴外会社の名目的な取締役に過ぎない者であるが、被告鎌形及び被告甲野の経営の実体を知り、または、知り得べきして取締役の権限(監視・監督義務)を何ら行使しなかつた。

したがつて、被告花子には、取締役としての任務懈怠があり、任務懈怠につき悪意または重過失がある。

4(被告甲野の責任)

被告甲野は、訴外会社の監査役として善管注意義務をもつて会計監査を行い訴外会社の倒産を阻止すべき義務があつた。しかし、被告甲野は、決算に際し何らの監査を行わず重大な任務懈怠をした。

したがつて、被告甲野には、監査役としての任務懈怠があり、任務懈怠につき悪意または重過失がある。

5 被告らの右任務懈怠行為と原告の損害との間には相当因果関係があることは明らかである。

第三  証拠《略》

第四  争点に対する判断

一  当事者間に争いがない事実及び以下〔 〕に掲げる各証拠(弁論の全趣旨を含む)を総合すると、以下の事実が認められる。

1  訴外会社は、「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(以下「商法特例法」という)」でいうところの資本の額が一億円以下、負債の合計金額が二〇〇億円未満のいわゆる小会社である。

〔《証拠略》〕

2  (本件契約締結の経緯)

原告は、大手建築業者株式会社銭高組の社員の紹介で訴外会社を知つたが、同会社とは初めての取引でもあり、念のため、訴外会社に本件工事を間違いなく完成させるだけの力量があるか否かの信用調査を東京都住宅局に出向く等して行つた。その結果、入手できた訴外会社の最新の業務成績は左記のとおりであつて(訴外会社の決算期は毎年九月末日であるが、後記の昭和六三年九月末日決算期の分は手に入らなかつた。)、その収入はほとんどが不動産売上で請負工事の年間受注件数は一、二件ということが判明した。そこで、原告(担当者、専務取締役坂本晴雄)は、右原告の疑問点を訴外会社担当者に申し述べたところ、訴外会社企画設計室長島田武佳、工務主任小島修らは「現在施行中の現場は三か所ある」「アイは弁護士である被告甲野の、ケイは被告鎌形の頭文字を取つたものである」「弁護士の被告甲野が監査役で利益率は悪いが赤字を出していないから大丈夫です」旨述べ、かつ、現場を何か所か見せた。原告は右訴外会社社員の言動を信用し、訴外会社には本件工事を完成させるだけの力量があると信じて本件契約を締結した。

第二期(昭和五九年一〇月一日から昭和六〇年九月三〇日、)

(一) 利益 なし

(二) 工事総売上高 一億二〇〇〇万円

(三) 不動産売上金高 一億〇五〇〇万円

(四) 納税額 六万七九〇〇円

第三期(昭和六〇年一〇月一日から昭和六一年九月三〇日)

(一) 利益 三六一万円

(二) 工事総売上高 二億一八〇〇万円

(三) 不動産売上金高 一一億三八〇〇万円

(四) 納税額 一七五〇万円

第四期(昭和六一年一〇月一日から昭和六二年九月三〇日)

(一) 利益 三五〇万円

(二) 工事総売上高 一億三一〇〇万円

(三) 不動産売上金高 一三億四六〇〇万円

(四) 納税額 八三三万円

〔《証拠略》〕

3  しかし、訴外会社は、遅くとも本件契約締結前の昭和六三年一〇月ころには、下請会社が一億円の不渡りを出してこれを肩代わりしたこととか、静岡県伊東市富戸所在の山林にマンションを建築して分譲しようとしたが開発許可がとれずに約四〇〇〇万円の仲介手数料、手付金の取戻しができなくなつた等の理由で既に経営が相当程度逼迫し、平成元年一月の本件工事着工時点(本件金員受領時)では負債の総額が約二〇億円に達して資金に窮する状態となり、訴外会社が本件工事を遂行、完成ができない状態となる可能性が十分あつたのにもかかわらず、訴外会社は敢えて本件工事に着工し、本件金員を受領した。

〔《証拠略》〕

4  被告鎌形は、昭和六三年一一月二二日作成の昭和六二年一〇月一日から昭和六三年九月三〇日までの訴外会社第五期決算報告書(内容は別紙のとおり、以下「本決算書」という)中の貸借対照表に以下のように虚偽の記載をして訴外会社に利益があるように粉飾決算し、訴外会社の信用状態を良好であるかのように装つた。すなわち、右貸借対照表の資産の部の「未収入金(未収収益)」欄に二〇億六八七九万五一〇六円を計上しているが、被告鎌形の供述によれば、「既に役務を提供した」とはいえず、したがつて、「未収入金」の定義に当てはまらないものが少なくとも五、六億円分入つている。また、同資産の部の「現金・預金」欄に九一三六万三六四〇円を計上しており、被告鎌形の供述によればそのほとんどが預金であるというが、訴外会社の通当時の取引銀行(株式会社住友銀行八重洲支店、株式会社協和埼玉銀行目黒駅前支店、第一相互銀行〔太平洋銀行〕銀座支店、大東京信用組合恵比寿支店、株式会社富士銀行立川支店、三栄信用組合本店)における昭和六三年九月三〇日現在の訴外会社の預金額は合計五六五二万円余であつて、右計上金額と符合しない(なお訴外会社の取引銀行のひとつである渋谷信用金庫本店は〔被告鎌形〕、当裁判所の送付嘱託に応じないので、ここに当時どの程度の預金があつたのか明らかではない。)

〔《証拠略》〕

なお、右2で認定したとおり原告の信用調査した中には本決算書は入つておらず、原告は本決算書の内容を直接信頼して本件契約を締結し、本件金員を支払つたものではない。

〔《証拠略》〕

5  被告花子は、被告甲野の妻で訴外会社の名目的な取締役に過ぎず、取締役の権限(監視・監督義務)を何ら行使しなかつた。また、同被告が訴外会社から報酬を受け取つた形跡は全くない。

〔《証拠略》〕

6  被告甲野は、被告鎌形の一〇年来の友人で、訴外会社の監査役であるが、被告鎌形から決算書類等を見せられて報告を受ける機会があつたが、その際、決算報告書等の会計帳簿について何らの説明を求めることもなく、当時の訴外会社経理担当者幡部耕造を信用し、この規模の会社では帳簿に基づいてできていれば充分と一人納得して決算報告書にゴム印と判を押した。

〔《証拠略》〕

7  訴外会社は、昭和六二年一一月ころまで東京都渋谷区《番地略》所在の小林ビル四階に本店を置いたことがあり、その後、訴外会社は他に本店を移転したが、右昭和六二年一一月ころ、被告甲野は訴外会社移転後の小林ビル四階に同被告の弁護士事務所を移転し、現在に至つている。

被告甲野は、訴外会社の協和銀行目黒駅前支店の当座預金口座に以下のとおり金員を入金する等被告甲野と訴外会社あるいは被告鎌形との間にはしばしば高額の金員の貸し借りがあつた。

(一) 昭和六二年三月五日 一〇〇〇万円

(二) 同年四月九日 五〇〇万円

(三) 同年六月一一日 五〇〇万円

被告甲野と訴外会社は、昭和六二年一二月ころ、東京都新宿区戸山一丁目の土地(二八六・七四平方メートル)を訴外会社が約一億円、被告甲野が約三億円を負担して共同で買受け(昭和六二年一二月一六日受付で被告甲野に所有権移転登記)、訴外会社がこの土地上に五階建のマンション(一八戸)を建築して分譲する計画を立て、原告も勧誘されたが、結局、右建築計画は頓挫し、右土地は平成二年になつて他に売却された。

〔《証拠略》〕

以上のとおり認められ、これを覆すに足りる的確な証拠はない。

二  以上の認定事実を基礎に被告らの責任の有無を判断する。

1  被告鎌形について

前記認定事実並びに弁論の全趣旨を総合すれば、被告鎌形は訴外会社の第五期のみではなく、原告が東京都住宅局で調査した第二ないし第四期決算のころから粉飾決算していた疑いが極めて濃厚であり、遅くとも本件契約締結前の昭和六三年一〇月ころには二〇億円を超える負債があつて既に訴外会社の経営が相当程度逼迫しておつたのにもかかわらず、被告鎌形は、本決算書中の貸借対照表に前記のような虚偽の記載をして利益があるように粉飾決算をおこない、訴外会社の信用状態を極めて良好であるかのように装つた。そして、平成元年一月の本件工事着工時点(本件金員受領時点)では資金に窮する状態となり、訴外会社が本件工事を遂行しこれを完成させることができない状態となる可能性が十二分にあつたのに、敢えて本件工事に着工し、本件金員を受領したものである。

企業経営者はその業務遂行に当たり常に多少の冒険を覚悟して行うものであり、誠実に業務執行している以上、その責任を直ちに問うべきではない。しかし、被告鎌形の右一連の行為は誠実に業務執行をして結果的に経営判断を誤つたものとは決していうことができず、同被告の責任を否定することはできない。

また、被告鎌形は、その本人尋問において以下のとおり供述する。すなわち、「訴外会社は、昭和六三年末ころ、高金利(年一二・五パーセント)のファイナンス会社である但馬信用保証株式会社(以下「但馬信用」という)に対して運転資金として一億円の融資を申込み、平成元年一月末に融資実行の運びとなり、これがあれば本件工事も十分完成させる見込みがついたと考えて本件契約を締結し、本件工事に着工して本件金員を受領した。しかし、融資実行日の近くになつて突然但馬信用は理由もいわずに融資を拒否してきたため訴外会社は倒産した。」とあたかも但馬信用から融資を断られたことが倒産の原因であるかの如く供述するのであるが(同被告の陳述書である乙一にも同様の記載がある。)、右供述を裏付ける資料の提出は一切なく、昭和六三年一一月ころには本決算書記載の「未成工事代金」のうち二億円が訴外会社に入つたとも被告鎌形は供述し、前記のとおり訴外会社は当時約二〇億円の負債があつたのであり、また平成元年一月二〇日に本件金員五〇〇〇万円を受領したのであり、以上を考慮すると、右供述をにわかに採用できないし、仮に事実だとしても、昭和六三年末から平成元年初頭における訴外会社の資金繰り悪化は極めて重症といわざるを得ず、このように借りれるかどうかも不確定な高金利の借入金の成否によつて訴外会社の死活が左右される事態を招来したところに代表取締役としての被告鎌形の責任がある。したがつて、右但馬信用から融資を断られた事実は直ちに被告鎌形の代表取締役としての責任を免責する事情にはならないといわざるを得ない。

したがつて、被告鎌形には、代表取締役としての任務懈怠があり、任務懈怠につき悪意または重過失があるというべきである。

2  被告花子について

一般に、取締役には取締役会を通じて代表取締役の業務執行一般について監督、監視する責務がある。

確かに、前記認定のとおり被告花子は被告甲野の妻で訴外会社の名目的な取締役でその権限(監視・監督義務)を何ら行使しなかつた。しかし、被告花子は被告甲野の妻であるとの関係だけから訴外会社の取締役に就任したものと認められ〔被告鎌形〕、同被告に右のような取締役としての職責を全うすべき特別の才覚があつたとの証拠は認められず、仮に同被告が取締役会の招集を求めることができたとしても、開催された取締役会ですでに認定した被告鎌形の任務懈怠行為を防止ないし阻止し得たかは相当の疑問であり、これは甚だ困難であつたと認められ、前記認定のとおり同被告が訴外会社から報酬を受け取つた形跡が全くないことをも考慮すると、同被告に右のような取締役としての監視義務を尽くすことを求め、右を尽くさなかつたからといつて直ちに右違反の責任を問うのは酷といわざるを得ない。

したがつて、被告花子には、取締役としての任務懈怠につき悪意または重過失があつたとは認め難い。

3  被告甲野について

被告甲野は、訴外会社の監査役として、計算書類たる貸借対照表・損益計算書・営業報告書等の案件及びその附属明細書などを中心に善管注意義務をもつて会計監査を行う義務があると解せられる(商法特例法二二条参照)。

前記認定のとおり被告鎌形は相当以前から粉飾決算をしていた疑いが極めて濃厚であると推認され、訴外会社は遅くとも昭和六三年一〇月ころには二〇億円を超える負債があり既に経営が相当程度逼迫しておつたのにもかかわらず、被告鎌形は、本決算書の貸借対照表に前記のような虚偽の記載をして利益があるように粉飾し、訴外会社の信用状態を良好であるかのように装つたが、被告甲野は、監査役として被告鎌形の右粉飾の事実を暴く機会を与えられたのにもかかわらず、訴外会社の会計監査を真摯に行わず、右の計算書類について説明を何ら求めることもなく、右の不正経理を見過ごし、結果的に訴外会社の本決算書中の貸借対照表の計算書類が訴外会社の財産・損益状況を正しく示していないのにそれを放置した。

右事実に前記第四の一、7に認定の各事実(被告甲野が被告鎌形と共同して訴外会社を経営していた事実までは認められないものの、被告鎌形と被告甲野の単なる友人を超えた特殊な関係が推認される。)を総合し、被告甲野が弁護士であつて、監査役に就任した以上一般人に比して監査役の職務をより一層真摯になすべきことが期待される職責にあることをも斟酌すると、同被告には、監査役として重大な任務懈怠があり、任務懈怠につき悪意または重過失があるといわざるを得ない(本決算書中の貸借対照表をみると資産の九五パーセント強が流動資産であり、負債の一〇〇パーセントが流動負債であつて、負債が資本金の一四五倍に当たること等が判り、弁護士がこれを真面目に検討すれば訴外会社が健全な経営を営んでいる会社かどうか相当の疑問を抱いたものと推測される。本決算書以前の決算期における決算書についても弁護士がこれを真面目に検討すれば同様な疑問を抱いたものと推認できる。被告甲野が監査役就任した動機・理由、報酬の有無等はその責任の有無には直接関係がないといわざるを得ない。)。

三  原告の被つた前記第二の二、6の損害と右被告鎌形及び被告甲野の任務懈怠行為との間にはすでに認定説示したところから明らかなとおり、それぞれ相当因果関係があるのは明らかというべきであるから、右両被告は商法二六六条ノ三、二八〇条に基づき右損害を賠償すべき義務がある(なお、前記第四の一、2及び4に認定説示したとおり原告は本決算書中の貸借対照表そのものを信頼して本件契約を締結したものではないから、被告鎌形や被告甲野に商法二六六条ノ三第二項に基づく責任は認め難い。)。

第五  結論

以上の次第で、原告の請求のうち、被告鎌形及び被告甲野に対する請求はいずれも理由があり、被告花子に対する請求は理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判官 片野悟好)

《当事者》

原告 アセスメント・オブ・リキ株式会社(旧商号 リキ開発企画株式会社)

右代表者代表取締役 力石孝治

右訴訟代理人弁護士 木村峻郎 同 池原毅和

被 告 鎌形 隆

右訴訟代理人弁護士 大川智大

被 告 甲野太郎 <ほか一名>

右訴訟代理人弁護士 板垣吉郎

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